プレカット工法について(過去投稿)

プレカット工場へよく検品に出かけます。
建築業をする人達にはなじみのあるプレカットですが、聞き慣れない方も多いかと思います。

調べてみると、プレカット[precut]とは「前もって切断された/切り込みの入った」「〜を前もって切る/切り取る」という意味を持つ形容詞または動詞で、多くは「何かの生産工程において、あらかじめ切断しておく」という意味として使われているのだそうです。ここまで言葉として調べたのは初めてですが、建築の場合「必要な部材を工場で加工しておく」ことを指します。建築ではプレカットを行う工法をプレカット工法、プレカットを専門に行う工場をプレカット工場と呼び、プレカット専門の会社もたくさんあります。

プレカット工場では、材料のカットに加え、木材の継手・仕口などの加工まで自動工作機械が行います。3次元ソフトで加工する形状のデータを作成し、工作機械がコンピュータ制御で加工してくれます。なのでまさに工場のラインでパーツを量産するイメージになります。

(トップの写真はお世話になっているプレカット工場です。小規模ですが、地方ではよく見かけるものです。この写真以外にも材料を保管管理する建物などもあります。こちらは材料に含まれる水分量を検査している写真です。)

工場で生産した部材を現場に搬入し組み立てるだけで済むため、工期の短縮とコストの削減が見込めます。部材の加工品質が一定なこと、また誰が組んでも品質に差が出にくいことなどのメリットがあります。プレカット業者に発注して加工してもらうわけなので、工期の予定が立てやすいのも魅力です。
ただし、急な変更には対応しにくい側面があることや、あまりに難しい加工には機械が対応出来ないことがある、木材の向き(節の位置など)や木の特性を活かした加工は出来ないことなどがデメリットになります。

では、プレカット工法以外は?と言われると、種類が増えたのではなく置き換わったという状況なので、現在の木造建築はほとんどいっていいほどプレカット工法です。あくまで木造の話ですが、プレカット工法を一切使わず建てているのは、神社やお寺などを手がけることの多い宮大工と呼ばれる職人さんぐらいではないでしょうか。技術をもつ職人さんの減少が主な理由ですが、働き方や生活が時代と共に変化した結果だと私は思っています。

そうなってしまうと、ただでさえ減っている職人さんがさらに減ってしまい、技術が途絶えてしまわないかと心配になられるかと思います。
しかし、私はそうは考えていません。

まず、職人さんは減少したと書きましたが、プレカット工場でどういった形状に加工することで強いつなぎ目になるのか、経験を生かす。工作機械で加工出来ない部分を手作業で加工する。そういったところで職人さんは今でも活躍しています。その知識や技術がなければプレカット工法自体始まりがないことになってしまいますしね。実際に雑誌などでも見かける、木の丸いかたちを残した梁の加工はプレカットでは出来ません。機械は決まった寸法の木材にあわせて出来ていますから、個性のある木材には対応出来ないのです。私の検品に行く工場でも、工作機械が動いているのと同時に、職人さんが機械で加工出来ない部分を手作業で担当しています。

別の側面にも理由があります。

建築は構造(骨組み)と意匠(デザイン)から成り立っています。
プレカット工法が支えているものは多くの場合、建物の骨組みの構造部分です。
建物の外観や内装など、人の目や手に触れる部分の意匠は、たくさんの職人さんが支えています。

つまり分業しているわけです。分業したため、職人さんはたくさんの現場で仕事ができるようになりました。職人さんは意匠の部分へ技術を注ぎ込むことが出来るようになったと考えたとき、技術は磨かれ、新たに発展していくことも期待出来ます。
プレカット工法も、プレカットに使用する機械も進化し、より複雑な形状の建物の材料(複雑な木材のつなぎ目)や複雑な構造体を成型するパーツをつくることも出来るようになってきています。こちらもプレカット工法だからこそ出来る構造や新しい建築が出てくる可能性もあります。

この理由に関しては、私自身の主観を多分に含んでいます。ただ、私達の設計においては、T定規と三角定規を使い図面を書いていたのが、ドラフターで書くようになり、さらにCAD(コンピュータ)による図面作成に進化してきました。木造建築工法においても大工さんのさしがね、ノミ、かんな、のこぎりなどを使った匠の技による建て方からプレカット工法へと変わってきていることは、工法の変化(進化)ともとることができますね。人間の高度な匠の技術は構造の部分ではプレカットにまかせ、その他の意匠の部分へと技術を発揮する場所が変化しているということだと思います。

最後に個人的に気になるところとして1つあげるとすれば...
建築以外も含めて考えた時、構造(骨組み)と意匠(デザイン)が一体となって奇麗にバランスしているものに、傑作とよばれるものが多いのです。
ここでは構造(骨組み)と意匠(デザイン)を別々に考えてしまっています。お互いが化学反応を起こし傑作が生まれるには少し時間がかかるかもしれませんがそう遠くない気もします。

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